涙と、残り香を抱きしめて…【完】
眉を顰める私を見上げ、マダム凛子がニッコリ笑う。
「その"好き"は、人間として"好き"って事で、男性として"好き"って事じゃないわ」
「えっ?」
何それ?
「そりゃそうでしょ?
好きなら離婚なんてしないもの」
「はぁ?離婚?」
何?何?離婚って…
「誰と…誰が、離婚?」
「私と仁に決まってるでしょ?」
「えぇーっ!!仁の奥さんって…凛子先生だったんですか?」
「そういう事よ」
あまりの衝撃にめまいがして倒れそうになった。
そんな事って…仁の奥さんが…マダム凛子だったなんて…
ただの元カノだと思っていたのに、まさか夫婦だったとは…
「でもでも、凛子先生は仁と寄りを戻そうとしてたんじゃぁ…」
「私が?仁と?」
「えぇ、新井君が会社の駐車場で凛子先生が仁に好きって言ってたのを聞いてます。
仁も俺も好きだって…だったら元に戻ってもいいじゃないって…」
少し考え込んでいたマダム凛子だったが、すぐに顔を上げ「あぁ、あの時の事ね!!」と頷く。
「あれはね、島津さん、あなたの事を言ってたのよ。
『島津さんは仁の事が好きなのよ。仁はどうなの?』ってね。
仁は『俺だって好きだ』と答えたわ。
だから私は『元に戻ってもいいじゃない』と言ったの。
でも仁は『今更か?』って渋ったワケ」
「うそ…私の事…?
じゃあ、どうしてその後、抱き合ったんですか?」
私が力強くそう言うと、明日香さんが私の背中を突っつき「それはね…」と言いにくそうに話し出す。
「私もその話しを凛子先生から聞いて、新井君に確かめてみたら…
2人が抱き合ったっていうのは、新井君の作り話しだったのよ。
あの子ったら、そう言った方がインパクトがあると思ってオーバーに言っちゃったみたい」
「なっ…ホントなの?」
新井君たら…なんて紛らわしい事を…許せない!!
しかし、疑惑はそれ1つだけじゃない。
「…凛子先生は仁のマンションの部屋に泊まって朝帰りしてたし…」