涙と、残り香を抱きしめて…【完】
その意外な人物とは…
仁とマダム凛子の娘
安奈さんだった。
「どうして安奈さんが…ここに?」
さっきまでの幸せな気持ちが一気に冷め顔が強張る。
「安奈が島津さんに渡したいモノがあるそうよ」
「私に?」
バツが悪そうにモジモジしながら私の前にやって来た安奈さんがチョコンと頭を下げ、私に差し出したモノ。
「これ…良かったら、使って欲しい」
それは、小ぶりの濃いピンク色のバラで出来た可愛いブーケ
「あなたと仁の結婚を知った安奈が、どうしても自分の手で作ったブーケをプレゼントしたいって、たった今、出来あがったばかりなの」
「安奈さんが、私の為に?」
あんなに私の事を毛嫌いしてた安奈さんが?信じられない…
「このバラ…"ピンク・マーベル"って言うの。
仁君と星良さんが出逢ったのが、仁君の会社ピンク・マーベルだって聞いたから…
どうしても2人にゆかりのある花でブーケを作りたかったの」
ピンク・マーベル?
あぁ…ピンク・マーベルって、バラの名前だったんだ…
「もうねぇ、このバラを手に入れるのに苦労したのよ!!
でも、あの新井って子が頑張ってくれて、なんとか間に合ったわ」
新井君が探してた花って…これだったの?
マダム凛子が大きなため息を付いた横で、安奈さんが眼を伏せたまま消え入りそうな声で言う。
「あたし…仁を取られたくなくて、今まで星良さんに嫌な事ばかりしてきた。
酷い事も一杯、言った。
だから星良さんは、あたしの事、嫌いだと思う。
でも、あたし…蒼君を好きになって分かったの。
仁君の気持ちも、星良さんの気持ちも…」
私は、安奈さんの言葉を聞きながら、香山さんの娘さんの事を思い出していた。
「好き同士だったのに、あたしの我がままで別れさせてしまって…ごめんなさい。
本当に…本当に…ごめんな…さい。
このブーケ、慣れてないから上手に作れなくて…
みっともないと思ったら使わなくていいよ。
捨てちゃってもかまわない。
でも、あたしの2人への気持ちなの。
だから…受け取って欲しい」