涙と、残り香を抱きしめて…【完】
きっと、あの時の桐子先生も、今の私と同じ気持ちだったに違いない。
「捨てるなんて…そんな事、出来る訳ないじゃない」
私は小さな安奈さんの体を抱きしめていた。
「安奈さんの想いが詰まった素敵なブーケ、結婚式で使わせてもらうわ
有難うね」
私の言葉を聞き、泣きじゃくる安奈さんが何度も頷いている。
そして私から体を離し、しゃくり上げながら言ったんだ…
「仁君を…いえ、あたしの…父を…
どうか、幸せにしてあげて…下さい。
お願い…します」
安奈さんのその言葉を聞いた瞬間、私の頬を一筋の涙が伝いそして、零れ落ちた。
「えぇ…約束する。仁を幸せにするから…
絶対に、幸せにするから…」
マダム凛子がソッと私の涙を拭うと「そろそろ時間よ」と背中に手を添える。
「はい…」
安奈さんに見送られ、私はブーケを手に再びチャペルへと歩き出した。
付き添ってくれているマダム凛子にブーケのお礼を言うと「私の結婚式の時は、島津さんがブーケを作ってよね」と冗談ぽく言って笑う。
「凛子先生…結婚するんですか?
お相手は…プロデューサーのピエールさん?」
「えぇ、まだ先の話しだけどね。
実は、彼と一緒に仕事したの今回が初めてなの。
彼と仕事する事を安奈が嫌がっていたからね…
でもね、一緒に仕事をしてみて分かったわ。
私を一番理解してくれてるのは彼だって」
「でも…喧嘩…してましたよね?」
「あぁ、アレね。
あんなのコミニュケーションの一つよ。
大した事じゃないわ」
「そ、そうですか…」
激しいコミニュケーションだな…なんて思いながらチャペルに入ると、仁が「遅いぞ!!」と怖い顔をして振り返った。
でも、私を見た瞬間、その怖い顔は驚きの表情に変わっていく。
「星良…そのドレス…」
「どう?素敵でしょ?」
クルリと一回転してドレスを仁に見せたのに、彼の視線は私ではなくマダム凛子に向けられていた。
「凛子…お前…」
「どう?よく似合ってるでしょ?
仁がデザインしたウエディングドレス」