涙と、残り香を抱きしめて…【完】

仁がデザインした…ウエディングドレス?


「どうしてこのドレスを星良が着てるんだ?」

「私からのささやかな結婚祝いよ。受け取ってちょうだい」


してやったり!!って顔をして満足気に微笑むマダム凛子。


そんなマダム凛子を見つめながら、工藤さんがその笑顔の理由を教えてくれた。


「以前、話したでしょ?
仁君がデザインしたドレスをマダム凛子のデザインと間違えたってアレ。
それが、このドレスだったのよ」

「えぇっ!!そうなんですか?」

「マダム凛子は、ずっと大切にこのドレスを持っていたのよ」

「あっ…もしかして、東京からトレーラーで運んできたマダム凛子の宝物って…」

「そう。このドレスよ。
今回の結婚式を仁君と島津さんで行うと決まった時に、あなたにこのドレスを着せてあげたいって東京の自宅から運ばせたの」

「どうして?どうしてそこまで…」

「罪滅ぼし…なのかもね。
仁君を裏切ってしまった事を、マダム凛子は今でも心の中で後悔しているんだと思う。

だから仁君には自分の出来る精一杯の事をしてあげたかったのかもね」

「そうだったんですか…」


この結婚式は、私と仁だけの結婚式じゃない。
沢山の人達の想いがこもった結婚式なんだ…


「さあ、大分時間が押してるわよ。2人は早く扉の前に来て」


マダム凛子に急かされ仁と並んで扉の前に立つ。


「仁…このドレス…私に似合ってる?」

「あぁ、最高に似合ってる」


開け放たれた白い扉…


この歩みと同様に、ゆっくり、そして確実に私達は幸せに近づいている。


スピーカーからはパイプオルガンの演奏が流れ眼の前には大きなバラの十字架。
そして、その後ろには宝石を散りばめた様な光の海


誓いの言葉を交わし、指輪の交換。


「慌てて用意したから、星良の趣味じゃないかもな」


なんて、ちょっぴり照れた仁のその顔だけで私は十分満足だよ。


そして、誓いのキス…


柔らかい仁の唇。もう触れる事はないと思ってた愛しい唇。


離れないで…もっと欲しい…


このまま、ずっとキスしていたい…



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