涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「…星良…そろそろ…いいだろ?」
「イヤ…もっと、もっと…」
長い長い誓いのキス。
呆れ顔の神父様に引き離されるまで、それは続いた。
会場からは笑いが漏れ、冷やかしの声が上がる。
「バカ!!恥かかせるな」
一応「…ごめん」と謝ったけど、反省なんかしないよ。
仁の隣に居られるなら、どんなに怒られてもかまわない。
乾杯のシャンパンがテーブルに配られている間、私は仁の体に纏わりつき甘える様に呟く。
「後で一杯、キスしてね…」
それを聞いた仁が私を引き寄せ熱い吐息と共に耳元で囁いた。
「キスだけで済むと思うな。
泣くほどいじめてやる」
その言葉だけで、体の奥が熱を帯び忘れていた何かが眼を覚ます。
「優しく…いじめてね…」
「ったく…こんなとこで発情するな」
なんて言ってるけど、仁だってまんざらでもない顔してるくせに。
「では皆様、グラスをお持ち下さい」
司会者の声に促され手渡されたグラスを眼の前にかざした時だった…
「あっ…」
「水沢仁様と島津星良様の新しい門出を祝して…乾杯!!」
グラスが重なり合う音の中で、私はソレを口にする事無くグラスの中の弾ける気泡を見つめていた。
「気付いたか?」
「仁…これって…」
「あぁ、"Dear tear"…"愛しい涙"だ」
「どうして?どうして"Dear tear"がここに?」
仁が指差す方向に眼をやると、ランウェイの横で手を振る男性の姿が見えた。
「フォーシーズンのマスター?」
「俺達が式を挙げると聞いて、どうしてもこのカクテルでお祝いしたいと言ってくれたんだよ。
それで急遽、シャンパンからこのカクテルに変更してもらった」
仁が私を想い、私を愛した証しとして名付けてくれたカクテル"愛しい涙"
最高のプレゼントだ…
「でも、マスターはこの結婚式の事を誰に聞いたんだろう…」
「…成宮だ」
「えっ?成宮さんが?成宮さんは、このカクテルの意味は知らないはず…」
「明日香が言ったんだよ」
「明日香さんが…?」
「なかなか、洒落た事してくれるよな…成宮のヤツ…」