涙と、残り香を抱きしめて…【完】

困り果ててる私の顔を真剣な表情でジーッと見つめる母親。
そして未だ号泣している父親を指差し小声で言ったんだ。


「そんな事が出来るんなら、あの偏屈親父も交換してよ…」

「なっ…そんなの出来るワケないじゃない!!」


母親の暴走に顔を引きつらせていると、仁が必死で笑いを堪えながら母親に挨拶してる。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。初めまして、水沢仁です。
縁あって星良さんと結婚する事になりました。
どうぞ宜しくお願いします」

「うんうん。バツ1の水沢さんね。
話しは社長さんから聞いてるわ。

12歳も年上って言うから、どんなオッサンかと思ったけど、なかなかの色男じゃない」

「…バツ1?オッサン?
もう!!お母さん、失礼な事言わないで!!
それに、社長に聞いたって、どういう事よ?」

「あなたが私達を避けてるから、社長室に乗り込んでやったのよ。
そしたら社長さん、えらい恐縮しちゃって、水沢さんの事も全部話してくれたわ。

で、是非、結婚式に出席して下さいって言うからここに来たのよ」


うわぁ~…それヤバい…
社長になんて言って謝ろう…


冷や汗タラタラで青ざめていると、工藤さんが気を利かせてくれ母親に打ち上げ会場に案内すると言ってチャペルから連れだしてくれた。


「なあ、星良…俺、絶対にパリに行く。
日本に居たら、お前の母親に何言われるか分からないからな…」


何気にショックを受けてる仁。


「同感です…」


これで仁がパリに行きたくないとゴネる心配は無くなったな。なんて安心していると、打ち上げの準備の為、チャペルを出て行くスタッフの中に成宮さんの姿を見つけ慌てて声を掛けた。


「仁、ごめん…。成宮さんと少し話したい」


私のお願いに仁は快く頷き、途中すれ違った成宮さんの肩をポンと叩くとチャペルを出て行く。


「成宮さん…」


誰も居なくなり静寂に包まれたチャペル。
こちらに向かって歩いて来る成宮さんの靴音だけが私の耳に響く。


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