涙と、残り香を抱きしめて…【完】
私の眼の前で足を止めた成宮さんが、また寂しそうな顔で笑う。
その笑顔が切なくて、まともに顔を見る事が出来ず眼を伏せたまま「有難う」とお礼を言った。
「気にするな…俺が星良の為にしてやれる事はそのくらいだよ」
「そのくらいだなんて…十分過ぎる。
このドレスも、あのカクテルも、凄いサプライズだった」
「約束したろ?お前のウェデングドレスは俺がデザインしてやるって…
まぁ、デザインは出来なかったけど、仕立てる事は出来た。
それに、あのカクテルの話しを西課長から聞いた時、なんか俺…感動してさ…
水沢専務がどれだけ星良を愛してるか分かった気がした。
ただ、星良と水沢専務が結婚するって聞いてマスターが腰抜かしてたけどな。
そして…お袋にも言われたんだよ。
俺と星良に運命は感じなかったって」
「お母さんが…?」
「あぁ、だからキッパリ諦めた。幸せになれ…星良」
さっきの寂しそうな笑顔は消え、本当に嬉しそうに笑ってくれてる。
だから、私も素直に言えたんだ。
「有難う。成宮さんも幸せになってね…
安奈さんと…」
「えっ?」
「安奈さんを幸せにしてあげてね」
「あ…う、うん…。
えっと…じゃあ、俺も打ち上げの準備してくるよ」
なぜか急に落ち着きがなくなった成宮さんが逃げる様に駆け出して行く。
どうしたんだろう…
不思議に思いながらも、控室に戻ろうと歩き出した時だった。
「待って!!」
驚いて振り返ると、チャペルの奥に居た安奈さんが思い詰めた表情で近づいてくる。
「安奈さん…居たの?」
私が話し掛けると、安奈さんが大声で怒鳴った。
「違うよ!!」
「…違うって何が?」
「蒼君の事だよ。星良さんは誤解してる。
…あたしと蒼君は一緒に住んでたけど、何もなかった」
「……えっ?」
「そりゃあ…キスくらいはしたけど…
それ以上の事は…何もない」
「うそ…でしょ?」
「ホントだよ。あたしは抱いて欲しかった…
けど、蒼君はとうとう最後まで抱いてくれなかった」