涙と、残り香を抱きしめて…【完】
信じられなかった…
一緒に住んでたんだよ?
なのに何もないなんて、そんな事あるの?
「蒼君は、ママと喧嘩して行く所がなくなったあたしに同情してくれてマンションに居ていいって言ってくれたの。
彼の名誉の為に言っとく。
蒼君は浮気なんてしてない!!」
「あ…」
私は、大きな勘違いをしてたんだ…
そうか…だからさっき、安奈さんの名前を出した時の成宮さんの態度がおかしかったんだ…
私はなんて愚かだったんだろう…
勝手に浮気したと思い込み、成宮さんを信じてあげられなかった。
なのに彼は、何も言わず私の幸せを願ってくれた。
成宮さんに申し訳なくて居ても経っても居られず、とにかく彼に謝らなくては…とドレスの裾を持ち上げた私の腕を安奈さんが掴む。
そして、チャペルに反響するくらい大きな声で叫んだ。
「ダメだよ!!」
「えっ?」
「星良さんは仁君の奥さんなんだから!!
もう蒼君の彼女じゃない!!」
「安奈さん…」
「あたし、まだ諦めてないから…
蒼君が振り向いてくれるまで、絶対に諦めないから…」
必死に私の腕を引っ張る安奈さんの顔を見て、なんだか胸が熱くなった。
安奈さんも、辛い恋をしてるんだ…
成宮さんの事が好きで仕方ないんだよね。
「安奈さん…これ、受け取ってくれる?」
私が手に持っていた彼女から送られたブーケを差し出すと、一瞬、安奈さんの顔が強張り、そして悲しそうに俯いた。
「あたしがあげた物なんて、いらないって事?」
「違うわよ。これは花嫁からのブーケのプレゼント。
これを手にした人は、次に結婚するって言われてるの…知らない?」
その意味を知った安奈さんの頬が赤く色づき、表情がパッと明るくなる。
「ホントに?」
「うん。安奈さんも幸せになってね」
「…有難う」
ブーケを大事そうに抱える安奈さんとチャペルを出て、仁の話しをしながら渡り廊下を歩いて行く。
「仁も凛子先生もパリに行っちゃうけど、寂しくない?」
「全然!!うるさいのが居なくなって清々する」
「そんな事言ったら、仁泣いちゃうよ?」
「ははは…仁君が泣いたら、よしよしってしてあげてね」
「よしよしか…OK!!」
安奈さんとケラケラ笑っていると、控室のドアの方から声がした。
「なんだよ?よしよしって?」