涙と、残り香を抱きしめて…【完】
気だるそうに体を起こした仁が枕元にあったシガーケースからタバコを1本引き抜くと、慣れた手つきで火を点け、ソレを私の唇にソッと押し当てた。
「…有難う」
何年も続いてきた私達の習慣。
情事が終わった後、1本のタバコを代わる代わる2人で吸う。
チリチリと音を立てフィルター近くまで燃え尽きたタバコを灰皿に押し付けた仁が私を引き寄せる。
仁の腕枕なんて、いつ以来だろう…
そのまま広い胸に顔を埋めた私の頭を撫でながら彼が独り言みたいに呟く。
「星良の夢が叶って良かったな…」
「夢?」
「モデルになる夢だよ」
仁の口からそんな言葉を聞くとは思ってなかったから、少しビックリ。
「仁は、それで良かったの?」
「いいに決まってるだろ?なんでそんな事聞く?」
「…仁は私がモデルになるの嫌がってると思ってた」
「はぁ?嫌なら凛子に星良をモデルにしてやってくれなんて頼まないだろ?」
「えぇ!!マダム凛子に私を紹介してくれたのって、仁だったの?
私はてっきり成宮さんだとばかり…」
「なんだそれ?」
仁が子供みたいにスネた顔して私を睨む。
「だって、社長が言ってたもの。
私が下着モデルしてた時、ランジェリー部門の撤退を決めたのは仁だって…
私とのモデル契約を解除したのも仁…」
「あぁ…アレか…」
今まで不機嫌な顔をしていた仁が、急にバツが悪そうに苦笑いして頭をポリポリ掻いてる。
そのまま黙んまりを決め込み、なかなか理由を言わない仁に痺れを切らし私が問い詰めると…
「モデルしてる星良が嫌だったんじゃない…下着モデルをしている星良が嫌だったんだ…」なんて言う。
「どういう事?」
「だから、他の男に星良の下着姿を見られるのが嫌だったんだ…」
「へっ?そんな理由で好調だったランジェリー部門を撤退させたの?
ヘタしたら会社が潰れるかもしれないのに?」
「…悪いかよ?」
呆れた…
でも、そんな風に思ってくれてた事が嬉しかった。
愛されてたんだね…私…
仁に抱き付きチュッとキスをすると、仁が照れた様に笑う。
「あっ、そうだ…
もう一つ分からない事があったんだ」
「なんだよ。まだあるのか?」