涙と、残り香を抱きしめて…【完】
何を言われるのかと、少々ビビリ気味の仁。
「安奈さんが仁の娘だと知った時から、ずっと不思議に思ってたんだけど…
どうして仁と安奈さんは苗字が違うの?
苗字が違ってたから、仁達が親子だって気付かなかった。
私が初めて安奈さんに会った時は、まだ仁はマダム凛子と離婚してなかったでしょ?」
少し困った様な顔をした仁だったが、観念したのか静かに話し出す。
「俺は、婿養子だったんだよ。
だから、水沢は俺の旧姓…離婚するまでの苗字は"清水"。
最近まで俺の本名は"清水仁"だった」
「清水…仁?」
「あぁ、今の社長に声を掛けられてピンク・マーベルを立ち上げた時、既に俺と凛子は離婚を考え別居してたから、俺は旧姓の水沢を名乗る事にしたんだよ」
知らなかった…
私は、仁の本名さえ知らなかったんだ…
「私は8年も側に居たのに…仁の事…本当に何も知らなかったんだね」
なんだか凄く寂しい気分になる。
「悪かったよ。言うタイミングを逃しただけで別に隠してたワケじゃない。
もう星良に隠し事はしないから
だから…な?機嫌直してくれよ…」
仁がシュンとして眉を下げた。
「じゃあ、私のお願い聴いてくれる?」
「おぉ、いいぞ!!なんでも聴いてやる」
私の願いは、ただ一つ…
「なら…どこにも行かないで…
朝まで…ずっと、私と居て?
もう一人で眠るのは…イヤ…」
寂しかった…
仁の残り香を抱きしめながら眠るのが、堪らなく寂しかったんだよ…
潤んだ瞳で仁を見つめると、優しく微笑んだ仁が私を強く抱きしめ
「俺がどこに行くって言うんだよ?
俺の帰る場所は、ここだろ?」
そう言って、私の胸に唇を押し当てた。すると、微かに感じる痛み…
唇が離れた肌に残る朱色の痕を指でなぞりながら仁が妖艶な瞳で囁く。
「明日の朝は、キスで起こしてやるから…」
「約束…だよ?」
「あぁ、約束だ…」
ねぇ…仁。
この幸せは夢じゃないよね?
もう、あなたの残り香を探りながら涙でシーツを濡らさなくてもいいんだよね?
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今夜、私はあなたに包まれ眠る…
ずっと待ち続けた"愛してる"という言葉と共に…
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