涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「いいから新井は仕事しろ!!」
《あぁ、そしてもう一つ…報告する事がある。
安奈の事だ。実は、あのジャジャ馬娘、大学を辞めてピンク・マーベルに就職したんだ。
親のコネを最大限に使い俺の居るデザイン企画部の一員になっちまった…
それだけじゃない。今まで水沢専務が使っていた社宅のマンションの部屋に住み付いて、毎晩、俺に夜這いをかけてくる。
で、それでだ…
非常に言いにくい話しなんだが…
先日の俺の誕生日に…その…なんだ…
『プレゼントはあたしよ~』とか言って全裸でベットにもぐり込んできた安奈を…
我慢出来ず…ここまで書けば分かるだろ?
取り合えず、付き合い出した事だけ報告しておく》
「蒼くーん。コーヒー持ってきたよー」
「安奈…会社では成宮部長って呼べって言ったろ?」
「分かってるよ。でもここには、あたしと蒼君しか居ないもーん」
俺の膝の上に座り子猫の様にじゃれてくる安奈に、俺はタジタジ…
《まだまだ子供で手が掛るお嬢ちゃんだが、あれで結構、女らしいとこもあったりするんだぞ。
でも、まだ水沢専務には知られたくない。
いいな!!この事は水沢専務には絶対、秘密だぞ!!
では、星良の活躍を日本から祈ってる。
頑張れよ!!》
「あ、蒼君のスマホ光ってるよ」
安奈から受け取ったスマホのディスプレーを確認すると…
「おっ、星良からだ。もしもし…星良か?荷物が届いたんだな?」
機嫌良くそう言った俺だった。だが次の瞬間、悪夢としか言いようのない事態に陥る事になる。
『…成宮…貴様…安奈に何をした?』
「はぁ?」
『人の妻にラブレターだと?ふざけるな!!
俺の大事な星良と安奈に手出しやがって…
日本に帰ったらブッ殺す!!
首を洗って待ってろ!!』
やはり、俺と水沢専務は水と油の様だ…
でも俺は、心のどこかで水沢専務に憧れているのかもしれない。
一人の女性を愛し続けたアンタに…
そして、俺がこの世で一番愛した女に愛されたアンタに…
「望むとこですよ。水沢専務!!」