涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「成宮…部長補佐…」
ハッキリ言って、今まで彼にいい印象は持っていなかった。
自己中のナルシスト
何より、女性を軽く見てるヤな男だと思ってた。
「あのさ、前から言おうと思ってたんだけど
その"部長補佐"って呼び方…やめてもらっていいかな?」
「えっ?」
「妙に長ったらしいだろ?
俺の事は、普通に"さん"付けでいいよ」
「でも、役職を付けて呼ぶのは当然の事だから…」
「別に決まってるワケじゃないよな?」
「え、えぇ…まあ…」
「なら、決まり!!」
デザイン画が散らばるデスクにもたれ掛り
笑顔を見せる成宮蒼
「でも、今の一件でよく分かった」
「…何が分かったの?」
いつもの自信満々な態度は相変わらずだ。
「島津部長と水沢専務の関係…」
「えっ?」
ドキッとして、顔が強張る。
気付かれた?
「どうやら、怪しい関係じゃなさそうだな」
「はぁ?」
「正直、さっきまで2人の仲を疑ってた。
でも、水沢専務が島津部長の男なら
あんな酷い事しないよな。
島津部長の立場も考えず
勝手にモデル決めたりして…
少なくても、俺だったら
惚れた女のプライドを傷付ける様な事はしない」
「……」
「水沢専務からは、君に対する愛情は感じられなかったよ」
仁との仲を疑われずに済んだ事に関しては
一安心。
でも彼の言葉は、私にとって残酷なモノだった。