涙と、残り香を抱きしめて…【完】
気持ちを切り替えデザイン室を出ると、既に仁とモデルの姿はなく
他の皆は仕事を始めていた。
自分の席に戻り
感情的になってしまった事を謝ると
部下達は申し訳なさそうに私を見る。
「部長が謝る事ないですよ」
「そうですよ。
私達も調子に乗って騒いじゃって…
ごめんなさい」
「モデルは部長のイメージに合った人にして下さい」
「皆…」
ありがたかった。
でもそれと同時に、自分の不甲斐無さに胸が痛む。
「もういいの…
モデルはさっきの理子さんにお願いすることにしたから…」
私の言葉に顔を見合わせる部下達
明日香さんも心配そうに私を見る。
「本当に、それでいいの?」
「えぇ。あの専務が選んだモデルだもの
間違いはないはず」
そう…
8年前に私を選んでくれたのも仁だった…
私が仁を信用しないでどうするのよ。
「さぁ、仕事!!仕事!!」
いつも以上に仕事に熱中し
気付けば、もう定時
最後の部下を見送り
私はデザイン室に眼をやる。
「さてと…借りを返すか…」
デザイン室のドアをノックすると
成宮蒼がゆっくりドアを開け
ニッコリ笑った。
「仕事、頑張ってたな」
「まぁね…」
「じゃあ、行くか…」
「えぇ…」
私と成宮蒼は、静まり返ったオフィスを後にした。