涙と、残り香を抱きしめて…【完】

タクシーに乗り込むと
成宮蒼は慣れた感じで運転手に行き先を指示してる。


「まだ名古屋に来たばかりなのに
詳しいのね」

「んっ?言ってなかったっけ?
俺、名古屋出身」

「えっ…そうなの?」


初耳だ。


「高校まで名古屋に住んでた。
大学は東京だったから、そのまま東京で就職した」

「へぇ~そうなんだ」

「でも、14年ぶりだからな。
街もかなり変わったよ」

「でしょうね」


成宮蒼は懐かしそうな眼で、車窓から見える景色を眺めてる。


「ここでいい」


繁華街でタクシーを止めると
真新しいビルを指差した。


「このビルの3階で、高校時代の友人がパブをやってるんだ。
たまには顔出せって言われてたんだよ。
でも、一人寂しく酒飲むのはガラじゃなくてね」

「だから私を?」

「まぁ、そんなとこ」


少し照れた様な笑みを浮かべた成宮蒼と共に
『フォーシーズン』という店の扉を開けた。


落ち着いた雰囲気のなかなかお洒落なお店だ。


ボックス席は隣とは完全に仕切られ
周りを気にせずにリラックス出来そう。


カップルには、もってこいのお店だ。


でも私と彼には、全く意味ないけど…


「よう!!久しぶり!!」

「おっ!!成宮じゃないかー!!
やっと来てくれたんだな」


和やかに談笑してる成宮蒼とマスター


「紹介するよ。俺の彼女の星良だ」

「ちょっ…彼女?何それ?」


否定する私の足を、思いっきり踏みつける成宮蒼


「痛ったーい!!」


そして、痛みに悶える私の耳元で
「そういう事にしといてくれ…」
なんて図々しくウインクなんかしてる。


なんなの?この男!!

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