涙と、残り香を抱きしめて…【完】
マスターに気付かれない様に、小声で囁き合う私と成宮蒼
「そんな嘘ついていいの?」
「俺に恥掻かせるな!!
借りがあるだろ?」
「借りって…
ただ、食事するだけって話しだったでしょ?」
「これもオプションで付けといてくれ」
「…ったく」
私と成宮蒼のヒソヒソ話しが
イチャ付いてる様に見えたのか
「仲いいな。
取り合えず座ってからにすれば?」
マスターがニヤけながら
カップル仕様のボックス席に案内してくれた。
完全に誤解されいる…
「初めまして。
成宮の高校時代の友人で星野です」
「あっ…私、島津星良です」
成宮蒼とは違い、とても優しそうな人
その後、お勧めの創作カクテルをオーダーし
成宮蒼と2人っきりになると
私は彼に冷めた視線を向けた。
「ちょっと、勝手に彼女なんて紹介しないでよね!!」
「んっ?迷惑だったか?」
「当然でしょ?
私は成宮部長補佐とは、なんの関係も無いんだから」
「ほら、また部長補佐なんて言ってる」
「あ…だから、その…成宮さんとは、赤の他人で…」
「今は…な」
「今は?」
「そっ!!今は赤の他人でも
明日は親密になってるかもしれない」
相変わらずの自信満々の笑顔で
スーツの内ポケットからタバコを取り出すと
私の目の前でソレを軽く上下に振る。
「吸うか?」
「ええ」
一本だけ飛び出したタバコを引き抜こうとした時
彼がタバコを引っ込めた。
「…何?」
「タバコなんて止めろ。
女なんだから…」
その言葉にカチンときて
私は成宮さんの手からタバコを奪い取り火を点けた。
「女性蔑視ね。
そんな事言う男…最低」