涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「最低ねぇ…」
「そうよ。自分だってタバコ吸ってるじゃない。
止めろって言うなら、自分が止めてからにしてよ。
大体、男の人って皆そう。
女だから、これはダメ、あれはダメ…
ウンザリだわ」
興奮気味に青白い煙を吐き出す私を
彼は視線を逸らす事なく
ジッと見つめていた。
「星良が好きな男は、止めろとは言わないのか?」
「言わないわ!!
彼はそんな器の小さい男じゃないもの
私を一人の人間として認めてくれてる」
成宮さんの顔色が変わった。
「それは…どうかな?」
「えっ…」
「惚れた女なら、大切にしたい。
そう思うのが普通だろ?
ソイツは本当に星良の事
好きなのか?」
一瞬、言葉に詰まった。
胸を抉られるような痛みを感じ
苦しくなる…
「今までの俺がそうだった…
遊びで付き合った女がタバコを吸ってても
気にも留めなかった。
ハッキリ言って
どうでも良かったからだ」
「だから、私も遊ばれてるって言いたいの?」
私の心の奥深くで燻り続けていた疑惑と不安
それを無理やり引きずり出された様な気分だった。
一番知りたい事…
でも、一番知りたくない事…
「断言は出来ないさ…
俺はその男の事は何一つ知らないからな…
でも、これだけは言える。
その男より、俺は星良を大切に思ってる」
「成宮…さん」
彼の真剣さがヒシヒシと伝わってくる…
でも私ははまだ、彼の言葉を丸ごと信用する事は出来なかった。
「いつもそうやって女を落としてるの?」
「なっ…疑り深い女だな」
すると…
「おまたせー」
マスターが満面の笑みで現れ
テーブルの上に鮮やかなブルーのカクテルを置いた。