涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「はい!!
当店イチ押しのカクテル
"Dear tear"だよ」

「Dear tear…」

「そう、店の常連さんが付けてくれた名前なんだ。
"愛しい涙"なんて、洒落てるだろ?

星良さんを見た瞬間、このカクテルのイメージにぴったりだったから勝手に作らせてもらったんだけど…
気に入らなかった?」

「いえ…素敵なネーミングですね。
頂きます」


愛しい涙か…


泣き虫の私にはお似合いかもね…


「良かった。
じゃあ、また後で
ごゆっくり…」


グラスを手に取り
気泡が弾けるカクテルを一口飲むと
ほろ苦く切ない涙の味がした。


すると突然、何を思ったのか
成宮さんがタバコのボックスを力一杯ねじり
カクテルのグラスの中に突っ込んだんだ…


「ちょっと、何してるの?」


鮮やかなブルーのカクテルが
タバコから染み出したニコチンで
見る見る茶色く濁っていく。


「俺は、今から禁煙する」

「な、本気で言ってるの?」

「あぁ、これくらいしないと
星良に信じて貰えそうもないからな…」


正直、彼がここまでするとは思わなかった。


私の為にここまで情熱的になってくれる人…居たんだ。


でも、彼の気持ちには応えられない…


「…8年になるの…」

「えっ?」

「今の彼と付き合いだして
今年で8年…

初めは側に居れるだけで幸せだった。
でもね、月日が経つにつれ
欲が出てきた。

彼を私だけのモノにしたいって…

でも、彼には私より…
私以上に大切にしてるモノがある」

「それって…まさか…」

「私は、2番目の女なの…」

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