涙と、残り香を抱きしめて…【完】

大きく見開いた成宮さんの瞳が
私を責めている様に見えた。


それでいい。
私はあなたに好かれる資格なんて無い女


「軽蔑…した?」


なのに成宮さんは、私の言葉に小さく首を振る。


「軽蔑はしてない。
でも、怒りを感じる…」

「怒り?」

「8年だぞ?
星良の一番輝いて時を、ソイツは台無しにしたんだ。
よく耐えてきたな…」

「それは違う…」

「何が違うんだ!!」

「幸せだったから…
その人と過ごせた時間は、私にとって掛けがえのない時間だったから…
これからも、私はその人と一緒に居たい。

だから、成宮さんを好きになる事は…
多分、ない」


長い沈黙が続いた。


スローバラードが一曲終わった頃
成宮さんが顔を上げた。


「…星良の気持ちは、分かった」

「じゃあ…」

「俺は諦めるつもりはない。
そんな関係が永遠に続くワケないだろ?

星良は、いつか俺を必要とする時がきっとくる。
それまで待っててやるよ」

「待っててやる?
ホントあなたって、どこまで自意識過剰なの?」


呆れて笑う私


そんな私の腕を成宮さんが突然、掴んだと思ったら
瞬きする間もなく
抱きしめてきた…


「やっ…離して…」


抵抗する私を更に強く抱きしめ
彼は言った。


「辛くなったら、いつでも俺のところに逃げて来い。
待っててやるから…」

「っ……」


彼の気持ちを受け入れたワケじゃない。


なのに、なぜか私は、抵抗する手を緩め
成宮さんに体を預けていた。


仁とは違う香り…
でもそれに違和感を感じる事はなく


むしろ安心感が私を包んでいた。



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