涙と、残り香を抱きしめて…【完】

今更、悔やんでも仕方ない。


星良の過去は取り戻せない…
だが、未来は変えられる。


「そろそろ自由にしてやらないとな…」


身を裂かれる様な辛い決断だった。


その日から、俺は星良との別れを意識するようになり
朝目覚めると、今日こそはと心に決める。


でも、仕事が終わり
当然の様に星良の部屋でお前を抱き
その愛くるしい大きな瞳に見つめられると
言えなくなる…


絹糸の様な艶やかな長い髪
雪にも負けないほど白く滑らかな肌
細くて今にも折れてしまいそうなスラリとした長い指


その全てが愛おしい…


そして…
何より、俺を虜にした感度のいい体


とても自ら星良を手放す事など出来なかった…


俺は卑怯な男だな。
星良の幸せより、自分の欲望を優先している。


結局、1年もの間
ずるずると関係を続け
お前を自由にしてやれてない。


いっそ、お前が他に好きな男を作れば決心出来るんじゃないかと思ってたが、いざその場面に遭遇すると、怒りと嫉妬で自分を見失い
星良に悪態をついていた。


きっと今、お前は泣いてるんだろうな…


泣き虫の星良
俺の可愛い星良…


俺は、どうすればいいんだ…


頭を抱え、床に座り込んだ時だった。
部屋の電話が鳴る。


この時間に携帯ではなく、家電に掛けてくるのは
アイツくらいだ…


急かす様に鳴り響く電話の受話器を取ると
予想通りの相手の声が聞こえてきた。


『お仕事、お疲れ。
今いいかしら?』
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