涙と、残り香を抱きしめて…【完】
俺がもたれ掛っていた女子トイレの引き戸が
凄い勢いで開いた。
全くの無防備だった俺は
当然、支えを失い背中から倒れていく
ヤバっ…
だが、反射神経には自信がある。
体を反転させ、これで後頭部強打は免れたと思った瞬間
俺の視界が黒一色に…
「……!!」
ドカッ…
床に倒れたはずなのに
柔らかい感覚…
「痛ったーい!!ちょっと…」
「んっ?」
「いつまで人の胸の上に乗っかってるの?」
「あ…」
それは、ブラックスーツを着た女
俺はこの女を巻き込み倒れ
尚且つ、その女の胸に見事に顔を埋めていたんだ。
「す、すまない」
慌てて体を起こし
女に手を差し出す。
「もぉー、ビックリさせないでくれる?」
そう言って、俺の手を取り
頬を膨らませた女に
なぜか胸が高鳴り、体がビクリと反応する。
なんだ?この感覚…
立ちあがった女がスーツの汚れを払ってる姿を
俺は、焦点が合わない視線でぼんやり眺めながら
心のザワつきを感じていた。
揺れる柔らかそうな長い髪
白く透き通る様な滑らかな肌
そして、立ちあがって初めて分かった
身長の高さ
170cmはあるな…
モデルか?
「あなた…新人さん?」