涙と、残り香を抱きしめて…【完】

奪う愛《成宮蒼side》



《成宮 蒼side》

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遅い…


星良がトイレに立って、もう15分
気分悪くなって、ブッ倒れてんじゃねぇだろうな…?
イヤ…まだそんなに飲んでる様には見えなかった。


腕時計の針とトイレのある方向を交互に眺めていたが
さすがに心配になり、様子を見に行こうとした俺の眼に
フラフラと戻ってくる星良の姿が映った。


一瞬、ホッとしたが
その顔は青白く生気が無い。


「どうした?気分悪いのか?」


彼女は俺の問い掛けには答えず
席に着くなり、泡の消えたビールを一気飲みし
思い詰めた様な表情で顔を顰める。


その後も、一言も話さず
ひたすら手酌で飲み続けていた。


「おい、ペース早過ぎだぞ!!
何があった?」

「…何も…ない。
飲みたいらけ…だし…」


既にろれつが回ってない。


数本のビールの瓶が空になると
今度は熱燗をグラスに注ぎ飲もうとする。


「やめとけ!!
これ以上飲んだらヤバいぞ」


グラスを持った星良の手首を掴んだ拍子に酒が波打ち
零れた酒が彼女のスーツのスカートを濡らした。


なのに星良は、そんな事お構いなしって感じで
グラスの酒を飲み干し
消え入りそうな小さな声で呟く。


「嘘つき…」

「えっ?誰が嘘つきなんだよ?」


俺が聞き返した時には既に
星良の意識はもうろうとしていて
虚ろな瞳は宙をさまよっていた。


ダメだ…
こりゃ、完全にアウトだな…
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