涙と、残り香を抱きしめて…【完】
冷静になって考えてみれば
あの女は、この会社の社員
見つけようと思えば、すぐに見つけられる。
無駄な体力を使う必要などなかったのに…
自分に呆れながら、視界に入ったタクシーに右手を上げた。
俺の名古屋での住まいは
会社が用意してくれたマンション
民間のマンションのワンフロアーを借り切り
社員用の社宅に使っているらしい。
社宅という響きに違和感を感じていた俺。
薄汚れた部屋なら、直ぐに自分で部屋を探すつもりだった。
が、マンションの前に立ち、その考えは一変する。
「ほーっ…なかなか立派なマンションだな」
会社から伝えられてた番号でオートロックを解除し中に入ると
広いエントランス
管理人も常駐
…悪くない。
部屋は15階1502号室
ワンフロアーに、部屋は4つ
俺の部屋はエレベーターを降りたすぐ左側
トンチンカン新井には、荷物が届くなんて言ったが
引っ越しは既に昨日、業者が済ませてくれていた。
想像以上に広い20畳ほどのリビング
対面式のキッチン
洋室と寝室…
一人暮らしなら、十分問題ない広さだ。
さすがピンク・マーベル
社宅もレベルが高い。
気分良く
一人、引っ越し祝いとばかりに
東京から持ってきたお気に入りのワイン片手に
皮張りのソファーに身を預けると
頭に浮かぶのは
あの女の顔…
もしかして、俺はあの女に惚れたのか?
まさか…
この俺が?…ありえねぇだろ?