涙と、残り香を抱きしめて…【完】
次の日の朝…
目覚ましが鳴るより早く眼が覚めた。
まんじりともせず天井を見つめながら、俺はあることを考えていた。
なぜ俺は、あんなに星良に執着するのか…
好きになることに理由なんて無いと聞いたことがある。
だか、自分でも不思議で仕方がない。
今まで数え切れないほど女を抱いてきたのに、こんな気持ちになったことは一度もなかった…
星良……不思議な女だ…
せっかく早くに目が覚めたんだ。
残ってるデザインを仕上げるか…と、いつもより早くマンションを出る。
エレベーターに乗り込む時、星良の部屋の扉に視線を移す。
アイツ…昨夜は眠れたんだろうか…
おそらく一晩中泣いていたんだろうな。
他の男を想い泣き腫らした星良の顔を見る気にはなれなかった。
一階のボタンを押し、ため息を漏らす。
今日も寒くなりそうだな…
一番乗りだと思ってオフィスのドアを開けると、既に出社している社員が居た。
トンチンカン新井だ。
「あっ!!成宮部長補佐、お早う御座いまーす。
今日も寒いっすねー」
朝からハイテンションだ…マジ、ウザい…
関わりたくなくて、早々にデザイン室へと向かおうとした俺を、新井が呼び止めた。
「なんだ?」
「あのぉ~このショーツのレース部分の色ですけど~
こんな感じでいいっすか?」
仕事のことなら仕方ないかと、新井のデスクに近づき見本のショーツを手に取る。
「このデザインは大胆なイメージだから、こっちの色の方がいいな」
「なるほどー!!分かりました。
でも、コレ、すっごく色っぽいですよねー
成宮部長補佐は、こんなの付けてる女性どう思います?」
鼻の下を伸ばし、相変わらずトンチンカンなことを聞いてくるヤツ。
「俺がデザインしたんだぞ。少なからずソソられるよ」
「ですよねー…んじゃあ、コレを付けて欲しい女性のこと思いながらデザインしたとか?」
その言葉に、ドキッ…とした。