涙と、残り香を抱きしめて…【完】

そう、あれは…7、8年前…

俺がまだ駆け出しのデザイナーで、有名デザイナーに付いて修行してた頃だ。


ファッション雑誌の撮影の休憩時間に、次の撮影で使う衣装のチェックで忙しく動きまわってた俺は、身動き一つせずパソコンの画面を食い入るように見つめているカメラマンの姿を不思議に思ったんだ。


何気なくその画面を覗き見ると、まだあどけない顔をしたランジェリー姿の女性が涙を流していた。


一瞬、ゾクッ…と、鳥肌が立ったのを覚えてる。


その幼い顔とは対照的な際どい黒のランジェリーが、彼女の透き通る様な白い肌を一段と引き立たせ、なんとも言えない色気を感じた…


一見、アンバラスに見えるソレは、俺の男心を刺激し
何より彼女の頬を伝う涙が儚く可憐で、胸にグッと迫ってくる。


仕事も忘れ立ちつくす俺に先輩の怒号が飛ぶ。
慌てて仕事に戻り撮影が開始されたが、あの女性の顔が脳裏から離れることはなかった。


撮影が終了し、後片付けで忙しくしていた間にカメラマンは帰ってしまい
その後、そのカメラマンと仕事をする機会はなくそれがどこのサイトなのか、なんの映像だったのか…確かめる術はなかった。


でもまさか、こんな所で、またこの女性に…出逢うことになるとは…


そしてそれが、星良だったとは…


なぜ俺が星良に惹かれたのか、やっと分かった気がした。


自分でも気付かぬ内に、俺の潜在意識の中に残っていたあの女性を、無意識に星良と認識し、彼女を求めていたのかもしれない。


初恋の相手に再会したような…そんな懐かしい想いが湧き上がってくる。


「…新井、どうして専属モデルだった島津部長が、モデルを辞めてピンク・マーベルに入ったんだ?」

「はぁ…聞いた話だと、会社がランジェリー部門から撤退することになって、島津部長との契約も解除になったらしいんですよ。

でも、商品開発の才能を買われて社員として迎えられたって…」

「…才能を買われて…か…」

「はい。かなり強引に誘われたらしいですよ。
水沢専務に…」

「水沢専務に…だと?」


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