涙と、残り香を抱きしめて…【完】
そういうことか…
あの二人の関係は、そこから始まっていたってワケか…
だから水沢専務が星良を特別視しし、保護者みたいに関わるのは、そんな経緯があったからなんだな…
そんなことを考えていると、次々に出社してくる社員達の中に星良の姿を見つけた。
俯きかげんの星良に声を掛け、デザイン室へと促す。
「休むかと思ってたよ」と言う俺を、複雑な表情で見つめる星良。
「仕事とプライベートは別だから…
それに、もう吹っ切れたし…
成宮さんには迷惑掛けちゃってごめんなさい」
そう言って頭を下げる姿が痛々しい。
「俺のことは気にするな」
星良はコクリと頷くと、眼を伏せたまま部屋を出て行った。
それから5日後
今日はクリスマス・イヴ
社内はどこか浮足立ち、若い女子社員達は妙にテンションが高い。
それは俺も同じだった。
何が何でも、今日は星良を誘い自分のモノにするつもりだったからだ。
最近の星良は、徐々に落ち着きを取り戻し、笑顔を見せるようになっていた。
この絶好のチャンスを逃す手はない。
「部長、試着品届きましたー」
新井が鼻息荒く段ボール箱を抱えオフィスに飛び込んで来ると、社員達が取り囲み期待に満ちた表情で商品を取り出してる。
「キャー!!素敵~」
「今回のは前回に比べると、グッと大人っぽい感じですねー」
社員達に好評を博し、俺も気分がいい。
「部長、早速、試着してもらいましょうか?
理子ちゃんに試着室で待っててもらうよう言ってありますから」
新井の言葉に、星良の顔が少し強張った様な気がした。
だが、それはほんの一瞬で、直ぐに笑顔で頷く。
「じゃあ、成宮さん、試着室へ行きましょう…」