涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「…モデルを勝手にクビにしちまって、どうするつもりだ?」
呆れた口調でそう言うと、今度は俺を睨み付ける星良。
「前にも言ったでしょ?
チームワークを乱す者は外れてもらうって」
「チームワーク?
乱したのは理子だけか?
お前だって、乱してるだろ?」
「な、私が…ですって?」
大声で怒鳴った星良が、納得いかないとばかりに俺に詰め寄って来た。
「そうだろ?この大事な時期に、モデルを辞めさせたらどんな事になるか…
分からないのか?」
「ぐっ…」
「発売までのスケジュールはカツカツだ。
明後日からは、サイトにアップされる宣伝用の写真撮影が開始される。
モデルが居ないで、どうやって進めるんだ?」
「それは…今からモデルを選び直して…」
「無理だな」
「…無理なんかじゃ…」
「いや、無理だ」
黙り込む星良
おそらく星良も、ヤバいということは重々、分かっているはず。
その証拠に、崩れる様に椅子に座り頭を抱えている。
別に彼女をいじめているワケじゃない。
むしろ、なんとかしてやりたい…
だがなぁ…
モデルは誰でもいいワケじゃない。
俺だって有る程度、理子のイメージに合わせデザインを考えてきた。
コレを今更、変更なんて冗談じゃない。
第一、もう時間がない。
星良も途方に暮れた様な顔をして
ため息を付いている。
しかし、その横顔を見て、ハッとした。
まてよ…このランジェリーのイメージにピッタリな女は、もう一人…居る。
俺は座っていた星良の腕を引っ張り立たせると、試着用の下着を彼女の手に握らせた。
「星良…お前がやれ」
「はぁ?」
「お前が、モデルをやるんだよ!!」