天使に逢えた日
人間30歳なんてまだまだひよっこ、と思わなくもないけれど
世の中にはこの年齢で妻となり母親となって
自分のことだけではなく家族のために尽くしている人が数え切れないほどいる。
それを思うと、自分がちょっと情けなく思える。
実家で暮らしているから食事の支度も洗濯も母がしてくれる。
シャンプーやトイレットペーパーを切らして夜中にコンビニに走ることもない。
どんなに朝早く出ても、夜遅く帰宅しても家事を自分ですることはない。
何の不安もなく寛ぐためだけに帰宅し
何の心配もなく家を出る。実に快適な暮らしだった。
でもその快適さは母が居てくれてこそのもの。
いい歳をしていつまでも親に甘えているわけにはいかない。
自立には先ず自活。そう決めて家を出たのだった。
それなのに、たかが自分ひとりの荷物くらいで
ため息吐いてどうするよ!
よし!と気合をいれて顔を洗って
コーヒーメーカーをセットしたまではよかったのだけど
肝心のコーヒー豆がないときた。
あるのは昨日引越しの合間に買ってきたミネラルウォーターとビールだけ。
あーあ・・・ すっごいブー。
気を回した母があれこれと持たせてくれたのは乾物と缶詰ばかり。
ありがたいようなそうでないような・・・
使えるようで使えないような・・・
微妙だよ、お母さん。非常時用持ち出し袋じゃないんだから。
やれやれ、とまた溜息をついたところで仕方ない。
珈琲豆は沸いて出てくるものでもない。
買ってくるか・・・
昨日買出しに行ったコンビニはここからすぐだ。
財布を掴みウレタンのサンダルを引っ掛けて
玄関の姿見を横目で見れば、ひっつめ髪にすっぴんで
くたびれたスエットにジャージ姿の私が映った。