天使に逢えた日
Ⅲ
「こんな漫画みたいな偶然ってあるもんなんやなあ」と
目の前で笑う彼は後輩とはいえ、実に頼もしい存在だ。
私が勤務するのは『Bonbons Maison』というインテリアや雑貨の小売販売の会社だ。商品作りから販売業務までを一手に行うSPA(製造から小売までを統合した最も垂直統合度の高い販売業態)型企業で、私は営業企画部にう所属し、営業戦略の立案、年間の動向に合わせて販促キャンペーンの企画やギフトの打ち出しなど、忙しい毎日を送っている。
元々ウチの会社の商品が大好きで、それが高じて就職を希望したのだから仕事は楽しいしやりがいもある。
忙しくて帰宅が深夜になろうともイベントやキャンペーンで休日出勤になろうとも文句はない。
けれど・・・一つだけ困ったことことがある。
私はどうにもデジタル機器に弱い。というか苦手なのだ。もちろんネットで検索したり通販で買い物をするくらいはできる。メールも然り。エクセルやワードも一応仕事に支障がでない程度には使えるようになったけど、それ以上の専門的な事や、互換性やら何やらプログラム云々という話になるとPCではなく私の脳内がフリーズする。今時信じられなーい!と呆れられてしまいそうだけどもう本当にダメなのだ。
その辺りをカバーする為と多様化する業務のサポートのために
今までもアシスタントをつけてもらってきた。
でもそのアシスタントの面々がどういうワケか「女」というだけで見下すような
鼻持ちならないヤツばかりだった。
“女のアシスタントをするなんて面白くない”
そう思う気持ちが見え見えで自信だけは人一倍だけど、経験も実力も言うほど無いくせに努力する事を格好悪いと思っているような私が最も信用できない男ばかりだった。当然そんな人とのコンビなど長続きはしない。
というか、そんな態度の彼らに私がキレたというのが正しい。
漂う険悪な雰囲気に部内では『水城とは仕事がしにくい』なんて噂が立ち始めた。男性だけでなく女性社員からも厳しいし細かそうと一緒に仕事をするのを敬遠され気味なのだと知ったときはさすがにへこんだ。
ただ精一杯仕事をしているだけなのにと悔しい気持ちにもなったけれど、その精一杯仕事をしているということが唯一の支えであり自負だった。おかげで毅然としていられた。
そんな頃だった。大手オンラインモールと提携して通販業務を拡大することになった。
そこからシステムサポートとして出向してきた阿達くんはとても人当たりが良くて気が利いて当然のことながらシステム関係にも詳しくて、こりゃ小難しい水城のアシスタントに持って来いだとばかりに即ポジションが決定した。