憎たらしいほど嫌なやつ
今にも雪が降りそうな空の下で
「奥さまよー、なに、その手?」
枯れ葉で埋め尽くされた地を歩く五十鈴(いすず)が、ぎょっとしたのも無理ない。
人気がないのは言わずもがな。辺鄙な土地たるこの林で、まさか声をかけられるとは思わなんだ。
一拍分跳ねた心臓でも、気だるげな低い声のおかげで、「奴か」とため息が出る心境となった。
いつもそう。
「そうやって、人を脅かすのが趣味なのか」
お前は、と木に寄りかかる長身痩身を五十鈴は睨む。
「脅かすのが、じゃねえな。不意をつくのが好きなんだよ、おーれー」
にたらにたらと緩む口元。目元は包帯で覆われているため捉えることはできないが、五十鈴の睨みを軽く流しているに違いない。
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