*9月26日* ―それでも君が好き―
教室に戻ると 夏架と砂依はいなかった。
「まだ…戻ってないのかな。」
席について 授業の用意をしていたら 不意に相澤くんが私の肩を叩いた。
「ひゃっ!!」
「わぉ そんな驚く?」
困ったように笑って私を見下ろす相澤くん。
「ごめん ぼーっとしてたから…。」
相澤くんは背が高い。
剛より高い。
長めの髪はくるくる遊んでいて 黒ぶちの眼鏡が大人びて見える。
「ねぇ 高木って男の子苦手なの?」
私の前の机に座って 優しく言った。
「いや 男の子っていうより軽い人見知りなの。」
こうやって男子と一対一で話すのは 剛以外はあんまりない。
「ふーん。」
えっ そんだけ?
「…どうしたの? いきなり。」
「いや せっかくだから仲良くなろうと思って。」
にこにこしてるけど すっごく冷静そうな目は私を逃がさず見つめる。
「相澤くんも潤が好きなの?」
私が言ったら 目を見開いて驚いたようだけど すぐに笑い出した。
「はははっ なんだよそれ。 健吾と俺はちげーよ。」
あっ やっぱ佐々木くん潤が好きなんだ。
「佐々木くんは やっぱ潤が好きなんだね。 私の目に狂いはなかった!!」
出しかけのままだった教科書を机に出した。
「狂いはなかったって 使い方ちがくね?」
「えっ…いっ…いいの!!」
やっぱり 人って話してみなくちゃどんな感じって分かんない。