*9月26日* ―それでも君が好き―
手は繋ぐ 腕も組む だけどこの距離は緊張してしまう。
剛が強引でないからか 私にはそういう免疫は一切ないんだ。
「…相澤がずっと奈穂を見てんだけどー どういうこと?」
珍しくぐいっと顔を近づけて 耳元で囁かれたら 全身がカチカチに固まってしまう。
…あぁだめっ 恥ずかしい。
「…っ……。 別に 何でもないよ。」
可愛げのない返事になるのだって無理もないんだ。
だって ちょっと私が動くだけで唇が触れてしまいそうになる。
それくらいに近いの。
みんなの前で しかもここは食堂。
剛ったら 何を考えているのやら。
「あっれー 奈穂がいなくなったと思ったら なーに珍しくみんなの前でイチャイチャしちゃって!!」
ばか潤っ!!
みんなの視線を一心に集めても尚 私を離さない剛。
……伝わる。
心臓のドクン ドクンってなる音が伝わってくる。
無理に顔をあげて 唇が唇に触れてしまわないように気を付けながら 剛の目を見た。
「…ドキドキ……って言ってる。」
小さく呟くと 頬を赤く染めながら剛が言った。
「…健全な男の子である証だね。」
…なにをぉーっっ!!!
「ばか。」
ぐいっと体を離すと 剛が私を強く抱き締めていた訳じゃないのに気が付いた。
拒まなかったのは私。
拒まれても私を離すつもりだった剛。
拒むわけないのに。
……まるで 割れ物を扱うように。
手を滑らせたら一貫の終わりだとでも言うように。
やだな なんだか。
もっと 強引だって良いんだから。