*9月26日* ―それでも君が好き―
「え ちょっと待って相澤くん。」
私が肩にかかるカバンをぎゅっと握って相澤くんを引き止めると 相澤くんの携帯がなった。
「………。」
「相澤…くん……。」
泣いている。
相澤くんが泣いている。
「…ちょっと どうしたの。」
ぼうっとしていて まるで何も考えていない見えていない瞳は やっぱり冷たかった。
「…相澤くん 教室でご飯食べない?」
私としては勇気を振り絞ったつもりだった。
誰もいない廊下はあまりに都合が良すぎるから。
「………。」
「…相澤くん。」
相澤くんのカバンを更に強く握ると 彼の右手が私の右手に重なった。
「……相澤…くん。」
涙で潤んだ瞳が 私を鋭く見つめて離さなくなったとき それは一瞬のことだった。
強く握られた右手を引いて 教室に私を連れ込んだ相澤くん。
流れるような動作のなかで 私を優しく抱き締めた。
「相澤っ……くん…。」
「あと30秒だけ。 俺に勇気をくれ…。」
背中にまわる手が私の両肩を強く抱き 剛とは違う力強さで私の拒む力を封じた。
中学生が悪ふざけと好奇心でやるような初めてのハグではなかった。
むしろもっと大人で 冷たささえ感じる 奥深げなものだった。
それがより一層 私の中の相澤くんにペンキで色を塗り重ねたのだ。
しばらくそうしていた。
相澤くんが何かしら言ってくるのを待っていた。
「………。」
その中でうごめく罪悪感。
……剛 どうか抵抗しない私を許して。
2度目の罪を許して。
「……わるい 奈穂ちゃん。」
肩にのし掛かっていた相澤くんの頭が離れると すっと楽になる。