北風と太陽と、その他諸々
水曜日の朝。

理央の事だから、昨日の事を気にして、朝食を食べに来ない気がした。
卵を焼きながら携帯を打つ。

『朝はちゃんと食べに来いよ。』

しばらくして返信がある。

『顔を合わせ辛い。』

『ユエは先に行った。』

『いや、お前とも。』

『良いから来い。』

全部出来上がったタイミングで理央は来た。
バツが悪そうに、しゅんとしながら。

「ユエ、何か言ってたか?」

先に口を開いたのは、理央だった。

「いや。何されたかも聞いてない。」

コーヒーにミルクを入れながら応える。

「襲おうとはしてないからな。」

様子を伺いながら理央は言った。

「さすがのお前でも、こんなところで、そんなことしようとは思わないことぐらい分かる。」

「でも、ユエはそう思ったかもしれない。」

理央の元気のない、情けない姿を見るのは珍しいなと思う。いつも、何にも興味ありません。と端正な顔に書いたまま歩いているような奴なのに。

「何したんだ?」

そう聞くと、理央は言いにくそうに、

「…なんか、気がついたら抱きしめてた。」

と言い、口元を押さえ、少し顔を赤くする。

「…………なぁ、お前、本当にユエが好きなんだよな?」

「なっ!」

じっと見ながら聞くと、理央はさらに顔を赤くした。

「な、何を朝から言わせようとしてんだよ!!」

あたふたと動揺している理央を観察する。
今だけではない。いつだって、どこをどう見たってユエが好きだとしか思えない。

「いや、それは良いんだけど、昨日の夜はどこに行ってたんだ?」

この質問をすると、理央は一瞬止まった。

「…あぁ、部活で飯食いに行くことになったんだ。」

そして、そのあとするりと言う。

「ふーん。珍しいな。」

何も知らない振りをして、そう返事をした。
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