スカイグリーンの恋人
『みなさま 当機は新潟空港を離陸いたしまして
ただ今水平飛行に入っております
福岡空港到着時刻は 午後4時30分の予定でございます
現地の天候は晴れ 気温は摂氏22度の見込みでございます』
心さんの低い声が機内に響く。
「わぁ いい声 男の人のアナウンスって なんかいいよね」
なんて女の子の声が聞こえてくる。
僕も同感、心さんの声は胸の奥深くまで響く。
彼は僕や伊織と同期だけど、歳が上だからみんなから 「シンさん」 と
呼ばれている。
髭と束ねた髪は、客室乗務員にはあるまじき格好らしいが、
心さんから髭をとったら幼な顔になりそうで、彼らしくなくなる気がする。
髭と束ねた髪が、大人の落ち着きを演出してるんだ。
落ち着いてるといえば伊織もそうだ。
アイツ、いつも落ち着いているが乱れるなんてことがあるんだろうか。
同期の中でもずば抜けて優秀だった。
佐名子さんも伊織には一目置いていた。
伊織も彼女を見ている好意を含んだ視線を、隠そうともしない。
はぁ……アイツには勝てそうにないな。
僕はカフェの店員からの転職だから、接客はまあまあできたけど、
「正しい日本語」 の対応はいまだに苦手、
「正しい敬語」 なんて怪しいものだ。
けど、こんな僕をなんとか一人前にしてくれたのは佐名子さんだ。
研修中、営業トークなら得意だけど、ちゃんとした接客ができなくて
苦労した。
「廉人君の個性を伸ばすのよ あなたにしかできないことがあるでしょう」
そう言って励ましてくれたのが佐名子さんだった。
僕は佐名子さんに見つけてもらった。