スカイグリーンの恋人


そのカフェで、僕はちょっとした人気者だった。

店で覚えた 「ラテアート」 が評判になり、僕を指名する客が増えた。

ラテやカプチーノの泡に絵を描くのは楽しかった。

「すごい」 と褒められれば悪い気はしない。

もともとしゃべるのは嫌いじゃないから、客とのやり取りも楽しかった。

でも本当は、カフェの店員じゃなくてバリスタになりたかった。

バリスタライセンスを取るために講座にも通った。

仕事の合間の勉強は大変だったけど、念願のライセンスもとった。


それなのに、カウンターの向こうに行くはずが、店の顔になっていた。

顔ってのは文字通りの顔のこと。

僕の顔は女の子受けするらしい。

「レント」 って名前が女の子受けするんだよなって、店の先輩に

イヤミも言われた。

そんなの知るか、僕がつけたんじゃないのに。


佐名子さんも、カフェにくる女の子たちと同じだと思っていた。

僕の顔とラテアートと、どうでもいいおしゃべりが目当てだと思っていた。

あの日、彼女に名刺を渡されるまでは……
 


「君の個性を伸ばす職場で働いてみない?」



そういいながら名刺を出した。


『グリーン・エアライン』 本部付き 北森 佐名子


仕事のあとで話をしたいという彼女に、僕はその場で返事をした。

「お願いします」 と……

空の上でコーヒーを淹れるのも悪くない。

そう思ったから……



空の仕事は予想以上に楽しいものだった。

カフェのギャルソンエプロンもそれなりにカッコよかったけど、

クルーの制服はカッコイイなんてもんじゃない。

体に合うように仕立てられた制服のジャケットは、ちょっと猫背な僕の背中を

見事にカバーしてくれる。

ぴしっと折り目が入ったスラックスとピカピカの靴は、僕の自慢の足を

もっと長く見せてくれる。 

窮屈で苦手だったネクタイも慣れればなんてことない。 

女性のお客さまは、男がネクタイを締めている姿が好きらしい。 

搭乗前の身だしなみにかなりの時間をかけて、制服姿のキャビンクルー廉人を

仕上げていく。

制服は 僕を三割り増し 「イイ男」 にしてくれるのだ。



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