スカイグリーンの恋人
2
「廉人君 またお願いできるかしら」
「いいですよ」
「あなたのラテアート すごい人気なの
コーヒーもお願いしたいんだけど……大丈夫?」
「大丈夫です カフェより全然忙しくないですから」
「廉人 そこに ”全然” はいらないだろう いい加減覚えろ」
佐名子さんの後ろから、心さんが僕の日本語を注意する。
この人は、電話対応を徹底的に仕込まれたらしく
「正しい日本語」 と 「正しい敬語」 がばっちり身についている。
で、他人の言葉にも厳しく突っ込んでくる。
なのに、接客以外の言葉は乱暴だ。
心さんの小言を聞き流しながら、ラテに細かい絵を仕上げていく。
「おまえはここにいろ」
「そうよ 私が持っていくから」
「いいです 僕が持っていきます 感想とか聞きたいし
23番Cのお客さまですね」
「ダメよ 待って!」
佐名子さんの親切を断って、僕は座席までラテを運んだ。
ラテを注文したのは女性客だと思ってた。
ところが、23番C席で僕のラテアートを待ってたのは男性だった。
男性客にありがちな 「男かよ」 とあからさまに落胆した顔ではなく。
「よくきたね」 とでもいいそうな嬉しそうな顔で僕を迎えた。
うわっ この人、おそらく……そっち方面の……
後悔先に立たずってことわざは、こんなときに使うんだろう。
「おぉ これは素晴らしい これを君が?」
「はい」
「飲んで壊してしまうのがもったいないな」
「いえ どうぞ……」
「うん 美味しい コーヒーはどこかで修行したのかな?」
「バリスタになるために 少しばかり」
「なるほど 豆の特製が……」
アートだけでなくコーヒーを褒められたのは久しぶりだ。
この人はかなりの通だ。
豆の特製とか製法をこんなに語れるなんて、只者じゃない。
どうしよう、ここで引き返したほうがいいのはわかってる。
けど、それではあからさまに 拒否 を示したことになる。
考え悩むうちに、その人は完全に飲み干して、僕の目の前にカップを
差し出した。
仕方なく手を出し、カップを受け取りすみやかに退去……のはずが、
手をつかまれた。
しまった!
と思ったときは手を引っ張られていた。