スカイグリーンの恋人
顔を限りなく近づけて、僕の耳元でその人の声がする。
「レント君 僕の店に来ないか 僕の片腕になって欲しい」
「……それは……あの 困ります」
『グリーン・エアライン』 に、コーヒーを美味しく淹れる
キャビンクルーがいると聞いた。
君の腕は評判以上だ。
君にとって悪い話じゃない、わかるだろう?
耳元で口説く声に、僕は鳥肌が立っていた。
この人はカフェの経営者で、それもかなり大きな店を持ってて、
僕の腕も見込んでくれた。
でも……まちがいなく……ゲイだ。
気をつけていたのに、まただ。
「お客さま いかがなさいましたか ご気分がすぐれないご様子ですが」
「あっ チーフ こちらのお客さまが僕のラテを褒めてくださいました
感想をお聞きしていました」
「まぁ それはありがとうございます
丹沢廉人は バリスタの資格を有するクルーでございます
彼のコーヒーを楽しみに搭乗してくださるお客様も多くいらっしゃいます
よろしければもう一杯 いかがでしょうか」
「うっ うん そうだな おかわりをもらおうか」
「廉人君 お願いね 心を込めてね」
「はい」
23番Cの客から、僕は急いで離れた。
心臓のドキドキが止まらない。
引き上げる通路の途中で 「レントさ~ん」 と呼んでくれた女の子たちに、
かろうじて手を振ることができたのは、佐名子さんが助けてくれたおかげだ。
多少引きつった顔を抱え、機内後方へ駆け込んだ。