スカイグリーンの恋人
「廉人 大丈夫か」
「大丈夫じゃないです 手を握られました」
「だから言ったのに おまえなぁ」
「23番って いつもは女の子が座ってるじゃないですか
だから大丈夫だと思ったんですよ」
「あの客の隣りの席 空いてただろう
二人分の予約が入ってたが 直前にキャンセルが入った」
「まさか 確信犯とか……」
「かもな」
とにかく、注文されたコーヒーを淹れなければならない。
心を込めるのは難しそうだが、間違いのない味に仕上げた。
持って行こうとして、心さんが 「俺が運んでやるよ」 と
僕からトレーを奪い取った。
僕はそれをまた奪い返した。
「おまえは行かない方がいい 今度は何をされるかわからないぞ」
「大丈夫です 自分でケリをつけますから」
「……そうか わかった 危なくなったら俺を呼べ 無理はするな」
「そんなに僕のことが心配ですか?
ひょっとして心さん 僕に気があるとか?」
「なっ なんだ そんなことあるか さっさと行け!」
ははっ、心さんの顔が真っ赤になってる。
案外真面目な心さんをからかうのも楽しみのひとつだ。
「まかせてよ」 と軽く返事をして、僕は23番C席のお客さまのもとへ
向かった 。
「お待たせいたしました どうぞ」
「うん ありがとう」
「先ほどのお話ですが……」
「うん?」
「僕を評価してくださり ありがとうございます
コーヒーを褒めていただいたこと嬉しく思います
お客さまのお言葉は大変自信になりました」
「そうか では考えてもらえるんだな 一緒にいい仕事をしようじゃないか」
お客さまの顔がぱっと輝く。
この人は、本当に僕の腕を評価してくれたんだ、むちゃくちゃ嬉しい。
けど、僕は自分の居場所を見つけたんだ。
「僕は……私は この仕事が天職だと思っております
ご期待に添えず申し訳ございません」
「そうか 残念だよ……では また客として来るとしよう」
「はい お待ちしております」
佐名子さんから研修で習ったように、体を腰から折り丁寧な礼をして、
心さんにならって 「正しい敬語」 らしい言葉を遣ってみた。
僕らしくなくて違和感があったけど、言ったあとの気分は最高だった。
隣りで僕を見ていた佐名子さんの目がウルウルしてたのも、
なんか嬉しかった。