スカイグリーンの恋人
キャビンクルー 池田 心
1
珍しいツーショットを見かけた。
見たのは初めてではないけれど、彼らの表情には親しさがあり
笑みまで浮かんでいる。
おそらく仕事の話ではない。
先輩後輩のような、気のおけない雰囲気が漂っているけれど……
それにしては二人の歳は離れすぎている。
小野寺本部長は38歳 池田君は確か29歳
彼らの年齢を正確に覚えていた自分に感心していたのに、自分自身の年齢も
思い出して気分が一気に下降した。
今度の誕生日で33歳
彼はわかっているのかな
「佐名子 好きだよ」 とためらいもなく言葉にしてくれるのに、
彼は将来を口にしない。
交際を公にしないのは、職場のバランスを保つため?
それとも 私のポジションは都合のいい女なの?
見えない彼の心を探すことに疲れも感じ始めている。
私の心を、いつまで宙ぶらりんのままにしておくつもりなのよ……
離れた場所から二人を眺める私に気がつき、彼が駆け足で近づいてきた。
親しい顔ではあるけれど、必要以上の親しさは見事に隠している。
池田君には、あんな顔を見せるのに……
「北森君 どうした 難しい顔をしてるじゃないか」
「なんでもありません……池田君と親しそうですね
以前から彼をご存知でしたか」
「あっ うん……」
「今まで黙っていらしたってことは 私たちに言えない関係だったとか」
私も会社の顔で話をする。
平然と話しかけたつもりなのに、苛立ちが声を尖らせ嫌味なことを
口にしていた。
「シンのことを隠してたわけじゃ……」
「池田君のこと 名前で呼ぶんですね」
丹沢廉人の仕返しのつもり? と苦笑いしてから、周囲を気にしつつ
素早く告げられた。
「シンの兄貴と同級生だった」
「同級生だから隠したんですか? 気になる発言ですね」
「……今日は手強いね」
私たちの間で一歩踏み込むことはタブーだったのに、今日の私は容赦なく
彼を追及する。
彼の困った顔を見たかったのと、クルーと親密な顔をしていた
彼への嫉妬から……
私の追い詰めるような目から逃れられないと思ったのか、彼は
「降参」 と洋画の一場面のように手を上げた。