スカイグリーンの恋人
2
『みなさま 本日はグリーン・エアラインをご利用くださいまして
誠にありがとうございました
お出口は前方一箇所でございます
みなさまにまたお会いできる日を キャビンクルー一同
心よりお待ち申し上げております』
湧き上がる歓声と拍手に、俺は恭しく頭を下げた。
「シンさーん」 と手を振ってくれる女性客もいる。
彼女たちに手を振り返すのは、まだ恥ずかしくてできないが、笑顔で
応えるまでにはなった。
着陸後ドアが開くまでの時間、乗客は降りるための準備に忙しく、
機内アナウンスなど聞いてはいないだろうと思っていたが、
グリーン・エアラインに限っては、降機時の乗客のマナーの良さは
際立っている。
他社の場合、早く降りようと我先にと立ち上がり先を急ぐものだが、
ここでは誰もが順序良く並びそのときを待つ。
そして、出口に並んだキャビン・クルーへ笑顔で声をかけてくれる。
制服姿のクルーと写真を撮りたいと希望があれば、最後まで待ってもらって
写真にも納まる。
握手を求めてくる女性客も多く、アイドルの握手会にも似た光景が
繰り広げられるため、それこそ最初は照れたが、いまでは
「またのお越しをお待ちしております」 といえるほどの余裕もできた。
俺の場合、なぜか男性客からの握手もあるが……
それには隙を見せずに応じている。
「アドレスを教えてよ」 と言ってくるのも男のほうが多いのが
気味悪くもあるが、それは想定内。
「池田君は男性のお客さまと お子様に人気があるはずよ」 と
佐名子さんに言われていたから、ある程度の覚悟はしていた。
佐名子さんによると、俺は男の目を惹く何かを持っているらしい。
同期の廉人もその傾向があるが、アイツの場合は女性客の割合が
圧倒的に多い。
俺も廉人も、そんな趣味はまったくないのだが……
「お子様」 に関しては自分でも驚いている。
どちらかといえば無愛想な顔なのに、子どもがなついてくるのだ。
「キッズサービス」 という付き添いなしの子どもだけの搭乗があると、
必ず俺が担当になる。
初めて担当したときは、子どもにどう接したらいいのか悩んだが、
その悩みはすぐに解消された。
なんのことはない、子どもの方から俺に寄ってきてくれたのだ。
子どもだと意識せずに話しかける、それが良かったらしい。
苦手だと思っていた 「お子様」 だったが、今では女性客より
苦手意識がない。