スカイグリーンの恋人
伊織君の背中を頼もしそうに見ていた私は、もう一人の気になる男性に
声をかけられて、心臓が跳ねた。
「今夜 忘れないでくださいよ」
「はいっ? あっ 廉人君 えっ……」
「えーっ もしかして忘れてましたか?
今夜の食事の約束ですよ ガッカリだなぁ」
「わっ 忘れてないわ 廉人君のご招待ですものね 楽しみよ」
「良かった お洒落してきてくださいね 待ってますから」
廉人君に言われると、年上の余裕もなくなってしまう。
綺麗な顔だというのはわかっていたけれど、吸い込まれそうな瞳が、
より顔立ちを引き立てている。
親しく話しかけ笑みを絶やさない彼は誰にでも優しい。
その笑みをたたえながら、廉人君は私の懐にすっと入ってきた。
私に気負う隙も与えずに……
一緒にいて楽だと思うのは、私が彼を特別だと思っているからなのか。
彼は今夜の約束の念押しをして、軽く手をあげ持ち場へと戻っていった。
「廉人と約束ですか 抜けがけとは許せないな」
「えっ 抜けがけって?」
「みんなあなたを狙っていますから……」
「狙ってるなんて……池田君 からかわないでよ」
「からかってなんかいませんよ
俺だって どうやったらあなたに近づけるか 日々考えています」
低く響く声が体の熱を一気にあげる。
好きです……と告白してきた彼は、あれから徐々に距離を縮めてきた。
私の戸惑いを楽しむよう、時にはストレートに気持ちを伝え、時には
気を持たせるように指先を絡めてくる。
心君に触れられることを待っている自分もいる。
こんなに気持ちを揺らしてくる男性はいない。
『佐名子は いつかほかの男のところに行ってしまうんだろうね』
保彦さんの言葉が耳の奥で響いて消えた。