スカイグリーンの恋人
「このメンツ どう思う」……心さんの声は僕らにだけ聞こえている。
手を動かしながらさりげない声だったが、聞いてきた言葉の意味は重い。
「やっぱり何か起こる可能性があるってことでしょう
僕と心さんが一緒なんて よほど警戒する相手だな」
「俺も伊織も有段者だ いってみれば用心棒だろうな
それに今日は小野寺さんが乗ってる
なにかあると考えるのが普通だろうよ」
「じゃぁ 僕の役割はなんだろう 空手をちょっとかじったけど
二人のように有段者じゃないし
伊織のように優勝経験もなければ
心さんのように無駄にすごい握力もないのに」
「無駄にすごいってなんだ そんな日本語はない
その無駄な握力に助けられたのは誰だよ」
「えへへ 僕です……その節はお世話になりました」
廉人が男性客に絡まれたとき、心さんが男性客の腕を押さえつけ
助けたことがあった。
心さんの見た目からは想像もつかない握力は、右手で90キロもあるらしい。
この人を知れば知るほど只者ではないと思う。
「わかってるじゃないか 廉人の役割は お客さまを冷静にさせることだろう」
はぁ? と作業の手を止め廉人が心さんを見る。
「言ってる意味が軽くわかりませんが……」 と言い、また心さんに怒られた。
「軽くわかりませんがって どういう意味だよ
”わかりません” に ”軽く” はいらん!」
「あぁ もぉー 突っ込みはいいですから!
だからぁ 僕がお客様を冷静にさせられるって?」
突っ込みってなんだよ、とどこまでも廉人の言葉遣いにイラつく心さんを
手で制し、廉人に向いた。
「廉人はいつだって落ち着いてる
軽く振舞っているようだが 常に注意を怠らない
突発事態が発生しても 笑顔でお客様を誘導できる人物が必要だ
だから廉人がいる
そういうことですね 心さん」
「まぁ そういうことだ」
僕と心さんに褒められて、廉人はニヤリと笑って見せ。
ふふっ……と妙な笑い声までこぼれている。
「佐名子チーフを守るのも僕なのか 任せてよ
二人は乱暴者を投げ飛ばしてくれればいいからさ」
「おまえなぁ 調子に乗るなよ チーフが……」
心さんの声にかぶさってきたのは、客室から聞こえてきた罵声だった。
荒っぽい男二人の声が聞こえ、僕たちは客室へと走った。