スカイグリーンの恋人
「取り分が4割だとぉ? ふざけるな!」
「ふざけてるのはそっちだろう 北のルートをつぶしたのは誰だよ
俺が知らないとでも思ってるのか!」
「声がでかい」
「声がでけぇのは 昔っからだ」
青いシャツの男と縞のポロシャツの男は睨みあったまま、いったん言葉を
引いたが危険な匂いがする。
言葉が聞こえ、周囲の乗客は怯えた顔になっている。
さっと見回したが、近くに佐名子さんの姿はなく、僕は胸をなでおろした。
廉人が後方座席の小野寺さんに指示を仰ぐ目を向けると、小野寺さんが
”こっちへこい” というように顔を動かした。
この場は僕と心さんで様子を見ることにして、どう動くかを目で確かめ合った。
”俺が言う” と 心さんの目が僕に話しかける。
彼の目にコクンと頷き、僕は一歩後ろにさがった。
「お客さま ほかのお客様のご迷惑になりますので
申し訳ございませんが……」
「なにぃ? 俺が迷惑をかけたってのか おい 俺が何をしたって?」
「お静かにお願い……」
心さんの言葉が終わる前に、青シャツの男を挑発するようにポロシャツの客が
声をあげた。
「ほら だから言っただろう おまえの声はでけぇんだよ」
「俺のせいだってのか? 商売の邪魔をするだけじゃ気がすまないのか
おい 何とか言え!」
「これ以上恥をかかすなよ みんな見てるじゃないか」
ぐるりと見回した男は、怯える顔の乗客を睨みつけるようにしている。
この場を収めるにはどうしたらいいのか……
解決策が浮かばず、同じように困った顔の心さんと目をあわすしかなかった。
「お客さま どうぞ」
「おっ サービスかい?」
「はい」
余計なことは一切言わず、佐名子さんがドリンクが乗せられたトレーを
男たちに差し出した。
荒れて尖った心も胃が満たされると穏やかになるというが、目の前の
二人の男がまさにそうだ。
たった一杯のドリンクで顔の険しさが消えている。
このような形で、難なく騒ぎを収めてしまった佐名子さんには完敗だ。
僕も心さんも、そして後方から僕たちを見守っていた廉人と小野寺さんの
顔にも、安堵の表情が浮かんでいた。