スカイグリーンの恋人
2
僕が佐名子さんに会ったのは、携帯ショップのカウンターだった。
お客さまとして来店した佐名子さんの接客をしたのが僕だった。
携帯の契約のあと 「あなた 空の仕事をしてみない?」 と
声をかけられた。
「少しでも興味があるなら 私の話を聞いてください」 と名刺を差し出した。
僕の業務終了時刻を聞き、それから、近くの喫茶店で待っていますと言い
「お待ちしてますね」 と彼女は笑顔のまま立ち去った。
名刺には聞いたこともない航空会社の名前と
航空本部付き 北森佐名子 とあった。
僕は待ち合わせの喫茶店に行って話を聞き、仕事に興味を持った。
興味を持ったのは仕事だけじゃない、あなたにも興味があった。
年上の女性に惹かれたのは初めてだったが、ひと目で 「この人だ」 と
感じた。
北森佐名子という人のそばにいたいという強い思いが、僕を新しい世界へと
向かわせた。
彼女に憧れるクルーは多い。
勤務中は 「チーフ」 と呼ぶが、仕事の場を離れると
「佐名子さん」 と密かに親しみを込めて呼んでいる。
僕もその一人だが、ほかのクルーより深い想いを抱いているつもりだ。
ここであなたを守るのは僕だ
そう思っていたのに……
「イオリ君 ねぇ こっちと こっち どっちがいいと思う?」
「お客さまには どちらもお似合いでございます」
「そんな営業トークはいいの あなたの意見が聞きたいのよぉ」
機内販売の 「機内限定ネックレス」 を手にとり、しなを作って
悩み顔を見せているのは、僕らが ”サエさん” と呼んでいるお客さまだ。
ローコストキャリアにとって、機内販売は大きな収入源になる。
サエさんのような常連客は搭乗のたびにお買い上げになるので、
非常にありがたいお客様ではあるが……