スカイグリーンの恋人
「ねぇ どっち?」
「そうですね どちらもお似合いですから おふたつご一緒にいかがでしょう
こちらは明日までの販売で 今後入手困難の商品となっております」
「まっ そうなの? じゃぁ ふたついただくわ
イオリ君に聞いてよかったわ」
「おそれいります」
どっちも似合うとは思わなかったが、それならふたつどうですか……
などと口にするなど、自分でも嫌な性格になったものだと思う。
以前なら、真剣に考えてお客様に似合う方を提案していたのに……
どこの業界もそうだが、仕事慣れしてくると感覚が麻痺してくるものだ。
まぁいい、今日のノルマをとっくに達成している。
僕も満足、お客様も笑顔、それでいいじゃないか。
ところが、それではすまなかった。
「イオリ君 相談だけど 二つ買うんですもの まけてくれない?」
「あの それは……」
「ちょっと いいじゃない 明後日から もう売らないんでしょう?
残っちゃう商品を私が買い取るのよ
会社だって商品が残ったら損じゃない だけど
それを買おうって言うんだから ちょっとまけるくらい いいでしょう!」
困った……どうしたらいいんだ。
飛行機の機内販売で値切る客がいるなんて、これまで遭遇したことがない。
返事に困る僕を、値引きの値段を考えていると勘違いした
”サエさん” のお仲間が、口々に僕を攻めてくる。
「そうよそうよ いいじゃない 一個しかいらないのをサエさんが
二個買うのよ まけたってたいしたことないでしょう」
「これくらいのネックレスだったら七掛けってところね
まぁ あっちこっちのマージンもはいるから 無理はいえないけど
二割は引いても儲けは残るわね」
「えーっ そんなに? ちょっとイオリ君
黙ってないで 何とか言いなさいよ 二割でいいって言ってるのよ」
ネックレスの原価なんて知るもんか。
七掛けが普通だって?
二割で儲けがでる?
サエさんのお仲間だけでなく周りの声も飛んできて 僕は身動きできなくなって
しまった。
「お客さま 大変申し訳ございません」
凛とした声で騒ぎの声を抑えたのは佐名子さんだった。