スカイグリーンの恋人


「こちらの商品は 羽田・小松間の就航を記念いたしまして 

当機へご搭乗いただきましたお客さまにのみ 限定数量を特別価格で 

ご提供させていただいております」


「限定数量なの? 特別価格ということは これはお値段以上の品物と

いうことね」



サエさんの言葉に佐名子さんがにっこりと微笑んだ。



「ちょっと聞いた? これ お買い得よ!」



それから、僕と佐名子さんは 「就航記念ネックレス」 の販売に追われた。

明日販売予定の分も、全部なくなるほどに……







「関谷君 お疲れさま」


「チーフこそ」



仕事のあと、佐名子さんに食事に誘われた。

二人だけで食事のテーブルを囲むのは初めてだった。

個人的な誘いに舞い上がり、嬉しさを隠すことができない。

仕事を離れると、クルーを名前ではなく苗字で呼ぶ佐名子さんの

律儀さを感じながらも、面倒な仕事のあとの開放感から、いつもより

気安く言葉をかけていた。
  


「国際線の経験が長いと いろんなことがあったんじゃないですか」


「えぇ そうね いろいろあったわね 

絡まれたことも一度や二度じゃないわ 怖い思いもした

でも その経験が今役立っているの」 



佐名子さんは、大手航空会社の国際線のキャビンアテンダントだった。

小野寺航空本部長とともに引き抜かれ 『グリーン・エアライン』 

創設メンバーになった。

僕らをスカウトしたのは佐名子さんだ。

小野寺本部長の恋人だと噂もあるが……



「でも さっきのあれ 本当ですか? 特別価格って」


「さぁ どうでしょう 利益のでない商品はないはずよ」


「えっ……いいんですか? あんなこと言いましたけど」 


「女はね 格安 限定 このふたつに弱いのよ 覚えておいてね」


「はい」



ワイングラスを半分あけた佐名子さんの顔は、ほんのりとピンクに

染まっている。

ふふっと笑う声は艶があり、彼女が笑うたびに僕の心臓は跳ねた。



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