華-ハナ-
「親がいて兄弟がいて、一緒に出掛けたり食事したり……そういう毎日が、当たり前だと思ってた」



抱き締めていた腕の力を緩めた舜が、あたしの顔を覗き込んでくる。


親指であたしの涙をそーっと拭ったあと、その大きな手で頬を包んだ。



「絢華はさ、元々おばあちゃんしかいなくて、優太さんが亡くなってからは、ずっと一人で頑張ってきたじゃん?」


「舜?」



何が言いたいの?



「俺、絢華のあの嬉しそうな顔が脳裏に焼き付いてんだよ」



“あの嬉しそうな顔”?



「何のこと?」


「俺の親を“お父さん”“お母さん”って呼んだ時のことだよ」



あ…


確かにあの時は、自分に“お父さん”“お母さん”と呼べる人ができるなんて思いもしなかったから、凄く嬉しくて涙を流した。
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