華-ハナ-
「お母さんは、ずっと独身でした。一人であたしを生んだんです」


「一人で?」



びっくりしたのか、目を見開く川越さん。



「はい」



もしかして、結婚してたと思っていたのかな?



だから“傷付く”って言ったのかな?



「じゃあ、この男性は?」


「えっ?」



川越さんは隣にある遺影に視線を移しながら問いかけてくる。


あ…


だから、お母さんが結婚してたって思ったんだ。


こうやって並んでいたら、勘違いしてしまうかもしれない。



「それは――…あたしの前の夫です」


「えっ!?」



川越さんはさっきのとは比べ物にならないくらいに目を見開き、こっちを振り返った。


想像していなかったことを言われたからか、川越さんは目を泳がせながら、また遺影に視線をうつした。


それからしばらくは誰も口を開くことなく、沈黙が続いた。
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