華-ハナ-
「でも、……一つだけ、いつもと違う華がいた」


「一つだけ?」


「ん」



その瞬間、我慢の限界だったのか、川越さんの表情が一気に歪み、目尻から一粒の涙がこぼれた。


川越さんはすぐにそれを拭い、また震える声で口を開く。



「別れ際に『ありがとう』と言ったんだ。『ありがとう、弘志』と」



『ありがとう、弘志』



お母さんにとっては、どうしても最後に伝えたかった言葉だったはず。


それでも、川越さんにとっては……



「アパートまで送っていったから、てっきりそのお礼だと思っていた。でも――…」



そこまで言った川越さんは、両手で顔を覆ったままうつむいて、肩を震わせた。



「…はなッ…」



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