華-ハナ-
目の前でお母さんを想って涙を流す川越さんに、何と声をかけていいのかわからず……


ずっとお母さんの遺影を見つめていたら


やっぱりお母さんと優太が重なってしまい、気付いたら、あたしの目からも涙がこぼれていた。



この静かな空間の中で、聞こえてくるのは川越さんが時々小さく漏らす嗚咽と……


あたしのそれ。


隣に座る舜が、やさしく背中を撫でてくれる。


そのやさしさがまた、あたしの涙腺を刺激する。


今はお母さんの話をしているはずなのに、あたしは優太のことを想いながら涙を流していて……


きっと川越さんの心は、お母さんを失ってしまった哀しみと後悔で埋め尽くされている。


あの時のあたしがそうだったように――…



あの時……


あたしの心は空っぽになった。


なにも考えられなくなった。


ただ目の前にいる愛する人が、目を覚ますことだけを……


帰ってくることだけを……


祈っていた。



愛する人を失う哀しみは、計り知れないほど大きなものなんだ。
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